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そよかぜは、放物線を描きながら、まだ見ぬ世界をもとめて、吹きわたる。
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「そういえば、また白髪が増えたんですよ」
会社の先輩になにげなく話したひとことだった。すると先輩は私に言った。
「俺、実はすごい白髪なんだよ」

黒髪長髪。毎日ちゃんとセットされた艶っぽい髪をした先輩は少し恥ずかしそうな様子だった。30代半ばで白髪があるのは驚く話ではないが、先輩にとってそれは、なかなか人に言えないことだったのだ。

私は自分の白髪を気にしているが、会話の一つとして抵抗なく話ができる人間。簡単にさらっと言うものだから先輩もきっとさらっとカミングアウトできたのだろう。会話に華が咲いた。

いろいろと試した結果、30代で白旗をあげて染めるようになったそうだ。ミーティングがある日は白髪がバレないように入念に染めていたなんて裏話まで、随分と赤裸々に話してくれた。最初は恥ずかしげだった先輩も最後には楽しそうに笑っていた。ずっと隠してきたから、解放されたようで嬉しかったという。思いがけず、なんだか少し良いことをした気分になった。私も嬉しかった。

誰にでも恥ずかしくて人には言えない悩みのひとつやふたつはあるだろう。一人で解決できることもあるが、さらっと言葉にしてみることで体がすーっと軽くなることもある。同じ悩みを抱えている人は自分が思うよりたくさんいる。そして意外と身近にいるものだ。

一人で悩んではネットで検索し、解決法や投稿された知らない誰かの助言を見るのもいいが、やはり悩みは対面で打ち明けるのが一番気持ちがいい。そこには話しているときの互いの表情や空気があるから。調和し合うその空間に人は安心を覚える。実に健康的だ。

野性動物が生きるサバンナでは自分の弱みを見せたら終わり。しかし人間社会は違う。弱みを見せることで人は強くもなれる。そして優しくもなれる。必要のない小さなプライドはどんどん捨ててしまおう。今よりもちょっと楽しく、ちょっと幸せに生きるコツ。それは、自分をさらけ出してみること。今よりももっと世界が広がるかもしれない。今よりももっと人を深く知ることができるかもしれない。

私のひそかな夢――年を重ねていつか髪全体が真っ白になったら、淡い翡翠色に染めて三つ編みにすること。

sakin

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